環境土木工学科
田中 聖三
教員紹介
プロフィール
- 【専門分野】
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○計算力学
○防災工学
○構造力学
- 【担当科目】
- 構造力学I/II 、 構造力学I/II演習 、 橋の工学 など
- 【研究テーマ】
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1.構造物の損傷評価・予測シミュレーション手法の開発
2.構造物の地震時応答挙動に関する研究
3.水害による構造物損傷解析のための波力推定の高精度化
- 【ひとこと】
失敗することが許されるのは初学者の特権です。学生時代は試行錯誤をし,失敗から学ぶ訓練をする期間でもあります。恐れるべきことは失敗することではなく,失敗から学べないこと,失敗を恐れて行動しないことです。
研究紹介
田中 聖三TANAKA Seizo
工学部 環境土木工学科 准教授
数値シミュレーションを活用し、
豪雨・台風・地震などによる被害を最小限に
PROLOGUE
地域に多大な被害をもたらす自然災害が、毎年のように発生しています。ゲリラ豪雨、台風、そして地震。自然の猛威にさらされ、土石流や河川の氾濫、高潮・津波などが起こると、建物はもちろん、産業や人命にもダメージを与えるため、再建に長い期間を要します。これらの自然災害の被害を少しでも防ごうとしているのが田中先生。先生は自然災害のメカニズムや、災害によって構造物が受ける損傷を明らかにするため、数値シミュレーションを活用しています。
世の中のあらゆる物理現象を、コンピュータ上で再現
世の中は物理問題がいっぱいです。コップの水にコインを落とすと水面が揺れるのも、壁にぶつかった自動車が壊れるのも物理現象です。これらのさまざまな現象を、数値解析手法を用いてコンピュータ上に再現するのが、数値シミュレーションです。
かつては自動車の事故時の安全性を確認するため、実際の車を壁に衝突させる実験を行っていました。これは時間もコストもかかります。しかし数値シミュレーションを活用してコンピュータ上で衝突実験を行えば、時間とコストを大幅に減らせるわけです。数値シミュレーションには、常に条件を一定に保つことができるというメリットもあります。
私はこの数値シミュレーションを、災害予測や、災害によって受ける構造物の損傷評価に活用しています。2005年、アメリカで発生したハリケーン「カトリーナ」が合衆国南東部を直撃。ポンチャートレイン湖に面するニューオーリンズは市内の約8割が水没してしまいました。アメリカの大学に勤務していた私は、カトリーナの被害メカニズムを解明し、ハリケーン高潮被害予測を行うプロジェクトに参加しました。
「カトリーナ」がいかにして甚大な水害をもたらしたか、数値シミュレーションで再現
台風やハリケーンの特徴は、中心気圧がすごく低くなることです。この低気圧が海を吸い上げるため、海水面は上昇します。またハリケーンは、北半球では反時計回りの強風を伴って海上を進みます。この風が壁や堰(せき)にぶつかると吹き寄せ効果が発生し、海水面を引き上げます。ただでさえ上昇していた海水面がさらに引き上げられたことで、水は想像以上の高潮となり、町を襲ったのです。
当時の状況を数値シミュレーションで再現すると、盛り上がった海水がどれほどのスピードで堰に近づき、町を水没させたか、克明にわかりました。同様の被害が東京湾で発生しない、とは限りません。災害のメカニズムや想定される被害をあらかじめ把握しておけば、対処のしようもあります。アメリカではスーパーコンピュータを使ってハリケーンをシミュレーションし、得られた最新の予測を危機管理に活かしています。それほど、数値シミュレーションは防災に有効なのです。
台風と並んで大きなダメージを生む災害に、地震があります。しかし地震は、事前の予測が難しい。そこで予測ではなく、地震被害の評価に数値シミュレーションを活用しています。
被害の評価ができれば、予防策に役立つ
地震で津波が発生した場合、津波は河川を駆け上がったり、堤防などの構造物にぶつかります。その際、構造物のどこにどういう力が発生し破壊されるかをシミュレーションするわけです。構造物がどう壊れるか解析できたら、壊さないための道筋が見えてきます。構造物が最低限持たなければいけない性能は、「たとえ最終的に構造物は壊れたとしても、住民や利用者の避難が完了するまでは機能を維持していなければいけない」というものです。そのようなギリギリの状況を想定した設計はしませんが、想定外の災害が起こった場合、こういった極限の状態に陥る可能性があります。その極限状態をシミュレーションしておくことが、安全確保につながるのです。
そのためには、現象を十分に解析することができる方法やモデル化、コンピュータの性能を効率的に使用する技術など、まだまだ開発していかなければなりません。
学生たちと共に、さまざまな数値シミュレーションの研究に取り組んでいきます。